古九谷・再興九谷の特色 解説の項目
1.九谷焼独特の絵付と絵の具
2.九谷焼の伝統となる様式
3.絵画的な図案・文様
1.九谷焼独特の絵付と絵の具
「九谷は絵付を離れて存在しない」といわれるとおり、九谷焼の特色は何よりもその独特な絵付です。
九谷焼の絵付をみると、縁文様と見込み模様、あるいは地文様という形式をとるものが多く、その見込模様は文様というよりも絵画的です。見込みに描かれた模様は山水、風景、花鳥、牡丹、鳳風、幾何学文、点景人物文など、絵画と思えるようなものばかりです。
そして、それらは多種多様で一点一点が異なり、似た模様があっても同一なものがなく、一定の画風ともいうべきものがないのではないかといわれます。この点からいって、九谷焼の模様は画家が描いた絵ともいわれるのです。
一つの例として、古九谷色絵の代表ともいうべき「色絵鳳凰図平鉢」(石川県立美術館所蔵)を見ると、白の素地をキャンバスにして「器面いっぱいに瑞鳥である鳳凰をただ一羽だけ」が描かれていますが、「鳳凰の胸部の張り、鋭い目つき、足部の力強さ、尾羽の動きなど、写生を基礎にデフォルメ(対象、主に人物の特徴を誇張、強調して簡略化・省略化する表現方法)された造形の美しさ」と「五彩で彩られた色彩の絢爛豪華さ」が素地の余白によって引き出されるように器面いっぱいに絵付されています。
一方、九谷焼の中でもう一つ、深く根付いている赤絵金襴手においても同じことがいえます。宮本屋窯の代表作である「赤絵花鳥文鉢」(石川県立美術館所蔵)では、赤を主調にして全体の構図を描き、深鉢の内と外に種々の複雑な枠取りをして、外側三方には黄・緑の絵の具と金彩を加えて華やかに主文様である花鳥を、さらに赤絵細描の技法によって多くの小紋を描き込んだ、すばらしい繊細な筆の運びの絵付を見せてくれます。
九谷焼の絵付の伝統は、華麗繊細でありながら豪放な古九谷の絵付がその後の九谷焼に引き継がれてきました。古九谷は、京の文化を手本にしながら、独自のものを創り出した加賀の文化と深いかかわりがあります。そもそも、古九谷が誕生した頃、加賀藩の細工所には絵師がいたのですが、陶画工は存在していなく、古九谷の絵付は絵画を学んだ大聖寺藩の武士によると考えられています。ですから、狩野派の画家
久隅守景のような専門の画家によって描かれたと考えらる作品があります。
こうしたことから、九谷焼の絵付は職人的熟練によるものでなく、絵画に練達した陶画工によったといわれてきました。その後、幕末から明治初期に活躍した、卓越した陶画工は大聖寺藩の藩士であったり、あるいは京などの画家に師事した者が多いのです。ですから、肥前磁器の絵付が、各地の職人によって、最初に絵唐津、それから染付での絵付が続き、完成されていったことを考えると、自ずから、古九谷の作風と異なってくると考えられています。
九谷焼の絵画的な絵付を可能にしたのは、いわゆる九谷五彩(緑・紫・黄・紺青・赤)の絵の具を使いこなす技法と呉須による効果的な線描があるからといわれます。九谷焼の絵の具は、落ち着いた中に明るさのある透明な(ガラス質の)絵の具で、通常の顔料とは異なります。古九谷のときから、絵の具には、焼かれたときに、発色が美しいこと、熔ける温度がほぼ同じであること、そして貫入が少なく剥離を起こさないことが求められてきました。そして、それらから感じる色は単純でなく、周囲の模様あるいは地色や呉須の黒と影響し合い、また色相互が補完し合うことによって変わって見えるのです。ですから、古九谷の青手のように、全体を塗り埋め、赤を用いることのない、多くて四彩、三彩そして二彩のものもあり、あるものは地文様の他に緑だけのものもあります。九谷焼の絵の具の色はとても直感的で印象的であるといえます。
≪古九谷の五彩の特徴≫
その色の組み合わせは原則として緑・紫・黄を主調とし、補色に紺青・赤を使用しています。赤や青(染付)が主で緑や黄や紫が補色として使われている肥前の色絵と根本的に異なります。
絵 の 具 | 特 徴 |
---|---|
緑 | 青味を帯びた澄んだ緑で、古くから緑といわずに青と呼んでいました 緑は古九谷の彩色、特に、塗埋手の中心となる色で、中国にも有田にもこのような緑はないのです |
紫 | 他窯の紫に比べて青味のある落ち着いた紫で、俗に藤紫といわれる。 |
黄 | 比較的濃い落ち着いた黄で、時により橙また緑色を帯びて見える。緑との二彩でも弱さを感じさせないのです。 |
紺 青 | コバルトによる発色と考えられ、落ち着きのある、かすかに紫味のある紺青です。 |
赤 | 紫黒色を帯びた強い赤 素地釉面の光沢を反映があるが赤の層は極めて薄く感じます。 |
≪各窯と陶画工の使った絵の具≫
各窯・陶画工 | 絵の具 と 彩色の特徴 |
---|---|
春日山窯 | 赤・黄・緑・紫・花紺青 黄緑 金彩(呉須赤絵) 発色は黒ずんでいる |
若杉窯 | 濃い緑・黄緑・黄・紫・(花)紺青・赤の塗埋手 俗にペンキ赤など多様 不透明な黄 薄緑と・薄黄 赤と染付による伊万里風の彩色もある |
小野窯 | 線描の模様に赤・黄・紺青・緑・黄緑の彩色 |
民山窯 | 赤・紺青・紫・黄・緑・黄緑 赤の細描 わずかな黄と薄い緑と紫 |
吉田屋窯 | やや暗い発色の紺青・紫・緑・黄 ほんの一部の金彩 |
宮本屋窯 | 赤絵細描 金彩 わずかに薄緑・紺青・茶がかった黄・紫 |
蓮代寺窯 | 褐色の素地に古九谷の緑・紫・黄 発色が悪い |
松山窯 | 紫・緑・紺青(不透明な花紺青)・黄を主に黄緑・薄青緑 |
永楽和全 | 緑・黄・紫と金彩 染付と赤地金彩のコントラスト |
粟生屋源右衛門 | 白化粧に水彩画の絵の具のように緑・黄緑・花紺青・黄・薄紫・茶 |
九谷庄三 | 色絵に赤地金彩(彩色金襴手) 黒地金彩もある |
九谷焼の伝統的な絵付では、呉須と呼ばれる黒褐色の釉薬で骨描き(絵文様の輪郭線)を描いた後、五彩で厚く盛り上げて彩色されます。その呉須は本窯で使われる染付用の藍青色の呉須と区別し、上絵呉須ともいわれます。
この呉須が常に黒く鮮明であるため、その上に塗られたガラス質の五彩絵の具の透明感を引き出す効果があります。
この点、伊万里とは異なり、太くて強い呉須の線描が輪郭線のみならず、描かれる対象物にも余白の地文様にも使われます。そして、塗り潰した絵の具によっては、緑の絵の具であれば黒のままに、黄の絵の具であれば紫に、紫の絵の具であれば焦げ茶に見え、厚く盛られた透明感の強い絵の具と重なり、多くの色を感じさせます。このようにして九谷焼では絵の具と呉須で九谷焼独特の絵模様を見せてくれます。
明治九谷の特色 |
様々な絵付技法 |
洋絵の具の使用 |
多彩な陶画工 |
制作者の銘 |
政府指導による図案 ほか |