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九谷焼を美術館や図録で鑑賞するための解説を行っています

筒 描 と 九 谷 焼 展 ~藍と五彩に込められためでたき意匠~


 九谷焼美術館としては”染織物とのつながり”をテーマに初めての展覧会となります。置き合わせて展示された筒描の染織物と色絵磁器の九谷焼を見比べてみると、あらためて美術工芸品どうしのつながりがあることがわかってきます。筒描の意匠には慶賀の祈りから生まれた吉祥文様が多く、同じく吉祥文様をよく取り入れている九谷焼との絵画的なつながりがあることがわかる展示となっています。

筒描写真

 筒描とは、防染糊による糊染めのひとつで、木綿の生地に円錐形の筒に入れた糊で図柄を描いて、藍甕の中に幾度となく浸け、藍染めされなかったところに朱、黒、黄などで彩りを加える染織の技法であり、筒引き、糊引き、糊描きなどとも呼ばれます。この染織物は江戸時代に広く普及し、婚礼、出産を祝う祝風呂敷、夜着、布団、暖簾、半纏など晴れの場、特別の用途に合わせ作られました。
 同じ筒描の技法を使う友禅染めの繊細華麗な模様とは対称的に、大胆な柄でそれでいてのびのびとした雰囲気を持っています。泰平の世において、友禅染めが華やかな着物ファッションであるとしたなら、筒描の染織物が庶民の晴れやかな衣服であり、それからは、生活に根付いた、それでいて洗練された江戸時代の粋や洒落といったものが感じ取れます。
 一方、やきものである九谷焼も、婚礼や宴席にぴったりの、晴れの場の器、もてなしの器として使われてきたのです。例えば、九谷焼に絵付された鳳凰の器には客の無病息災への願いが込められ、接客のときに惜しみなく使われ、それが心づくしのもてなしとされてきました。
 両者には、用途にふさわしいデザイン、「めでたき意匠」において非常に似通ったものが多く見られます。これは、偶然、吉祥文の作品が数多く作られたというより、やはり職人が用途に見合った作品を制作したからといえます。
 九谷焼において、本焼きされた素地の上に呉須で骨描きしから五彩で絵付する、それをまた焼くという工程で多くの職人が係わったのと同じように、筒描の染織物も絵師、筒描職人、染色職人が携わって、生地に糊が置かれ、そこに藍、朱、黒、黄などで文様が染め込まれていったのです。
 どちらもレベルの高い絵師が意匠を描いたものであり、高い絵画性があることが共通しています。残念にも、今では手間の掛かる筒描の染織物がその分高価となり、安価なプリント染めにとって替わられる中、筒描の染色職人も減りつつあるといわれます。ですから、筒描のほとんどの作品が資料館やギャラリー等でしか見られなくなってきた今、3期にわたり筒描の作品が展示替えされる今回の企画展は非常に貴重な機会といえます。