恋する乙女と鏡の邂逅(300字SS)
鏡を覗いて「今日も可愛いね」と自己暗示をかけていたら、別人が映った。 驚いて顔や髪を触ってみたけどいつも通り。 変わったのは鏡の中のわたしだけ。――しかも、何故かあの男。 「そんなところで何してるんだ?」 うわ、話しかけてきた。 「アンタこそ何やってんのよ、勤務時間中でしょ」 少し嬉しい自分が悔しい。それを悟られないように仏頂面で答える。 鏡の中のアイツは珍しくにっこりと笑った。 「固いこと言うなよ、可愛い顔が台無しだぜ?」 ……違う。 この男がそんなこと言うはずがない。言ってほしいと思ったことはあったけど。 「ふん、偽者ならもっと本物に似せる努力しなさいよね」 アイツは悔しそうな顔をして、元のわたしに戻っていった。